月下美人

遊びに行った友人の家にて。帰り際、おみやげに…、と手渡してもらったものは、白い花の咲くサボテン“月下美人”とかりんの実だった。友人の家は、庭に植物が溢れている。そして、大切にされている。そういうことは、なんとなく気配でわかる。葉っぱや、枝、そして花達のエネルギーが充実している感じ。勢いがいい。彼女の父上は、日曜の朝から私が帰る夕暮れ遅くまで、タバコをゆらせながら、ずっと庭に入り浸っていた。鉢がたくさん置かれた庭で、一鉢一鉢愛おしむ。

部屋の中にも、たくさんのサボテンと観葉植物がたっぷりと光を浴びて、そこにいた。この部屋の置かれて育まれた“月下美人”。彼女の父上から、白い花が艶やかな“月下美人”の写真、と手強い程 強いピンクの花色の“孔雀サボテン”の写真を見せて戴いた。何枚も何枚も、何枚も。彼女の家族は、口々に、香りが良かったね、キレイな花だった、と述懐した。

月下美人”は、その名に相応しく少しワガママな花だ。真夜中の数時間だけ、花が咲くとか。花が咲いていないサボテンを目の前にして、友人と彼女の両親、そして私の4人で、“月下美人の花咲く姿”に思いを馳せた。あの瞬間。言葉にした訳じゃないけど、完璧にわかちあった気がした。…例えば、空間そのものを。もしくは、その存在を。桜もないのに、花も咲かずに熱心に花見をしているようで可笑しく思う。可笑しく思う一方、そういう風に沈黙の中でわかちあうのも、悪くないな、と思えた。貴重な時間。

【今日のひと花】月下美人(げっかびじん)/(学名:Epiphyllum) /サボテン科/花期:6-7月/花色:赤,紫、ピンク、オレンジ、黄、白/中南米各地に20種類程の原種が自生する。夏に蒸らして育てると、花つきが悪くなる。排水のよい用土で、栽培する。白花の月下美人は、夕方咲きはじめ、明け方にはしぼむ。美人薄幸タイプ。でも、それがゆえ、美しい。