シロクマパン

ookakiuchi2005-12-05

秩父の山々を仰ぐ越生町。“埼玉県郷土カルタ”をめくると、「う」=“梅の花越生の里の春日和”と、この町について表現されている。先日、この越生の町に車で通りかかり、パン工房“シロクマ”という所に立ち寄った。大きな道からはずれ、小さな入り組んだ道をなぞり、田園が広がる一角に目的の店があった。木造平屋の小さなかわいらしいパン屋さん。3人程入れば、いっぱいになる大きさのお店。ここのパン屋さんのショーケースに並べられたパン達は、どれも周りの風景に似て、素朴で、手に取りたくなるようなパンだった。選んだパンを袋に入れて、持ち帰る道々、なんだかふくふくと嬉しい気持ち。

会社に持ち帰って、皆でそのパンを食べたのだった。小さな小さなお裾分けと、和らぐ笑顔。

…なんの偶然だったのだろう。翌日の読売新聞記事(2005年・12/4づけ)にこのパン工房シロクマについての記事が掲載されていた。

店のご主人は、白血病と戦ってまもなく10年の月日がたつこと。このパン屋さんで、おいしいパンを買うことを目標に、自転車ロードレースの練習に励んでいる人がいること。店の評判は口コミで広がり、サイクリングカップルや親子連れ…、など様々な人々が集まるようになったこと。常連のお客さん達が店に顔を出してくれることに励まされ、不安定だった体調も、調子が悪くなる日が減ったこと。病気になる前に戻れたら、と呪文のように願っていたのに、今は“今日は、昨日よりおいしく”とそれだけを真摯に願って、朝5時から調理場に立つパン屋のご主人。

勿論、そんなことは何も知らずに皆で、おいしいねぇ、などと言いあって顔をほころばせた。今更ながら、もの凄いものを噛み締めたような気がした。おいしさの背景にあったもの。あの味は、ただならぬものを内包して、今日も色々な人の笑顔を誘っているのかもしれない。