曼珠沙華(まんじゅしゃげ)

ookakiuchi2005-09-10

a.m.4:30。

起き抜けのTV画面から、朱色の花が溢れんばかりに咲き乱れていた。ぼんやりと停滞している頭もみるみるうちに画像に引き込まれる。朱の海は、曼珠沙花。俗に言う、彼岸花だった。あまりに圧倒的で、うまく表現できらんけれど、威厳のある花だと思う。厳かな美しさ。唯一無二の存在感。…かつて、忌み嫌われた過去を持つこの花は、お墓の側に植えられた植えられたせいだろう。なんとなく、人を寄せ付けない雰囲気を持っている。今となっては巾着田の曼珠沙花のように、観光名所のひとつに数えられているのは不思議な話。ちなみに、お墓の側で曼珠沙華がよく見られたのは土葬だった時代、動物達に死体を掘り返させないように、曼珠沙華の有毒性を用いたらしい。田んぼのあぜ道に植えられたのも、動物達が近づかないようにする為に。どちらの場所にとっても、守り神のような存在だった歴史を持っている。

私にとって曼珠沙華は、特別な花だ。昨年、埼玉県の近代美術館で“生誕100周年記念〜宮脇綾子の世界展”を見てからは尚のこと。宮脇さんは、アプリケ作家で布を用いて日常を表現してはった方だ。その造形が、ユーモラスで美しい。縫い糸のいびつさも含めて、愛らしくて大好きだ。この方の作品で最も好きなものは、“曼珠沙花”を形どったもの。赤い布地に白い布で描かれた“曼珠沙花”は、凛と浮き立つ美しさ。この作品には、うっかりしていると見とれっぱなしになってしまう。曼珠沙花の作品の側には、こんな文字が書き込まれていた。


“世の中で、一番愉しく立派なことは、
 一生涯を貫く仕事を持つことです。
 世の中で、一番尊いことは、人の為に尽くし、
 特に恩に着せないことです。”

凛とした姿勢でアップリケを縫う宮脇さんの“姿勢”に触れた瞬間でした。今年こそ、巾着田であの朱色の海をこの目で見たい。


【今日のひと花】曼珠沙花(まんじゅしゃげ)/別名:彼岸花,スパイダーリリー/(学名:Lycoris radeata) /ヒガンバナ科/半耐寒性球根/花期:9月/花色:赤,白/日なたから半日陰、土質を選ばずよく生育する。田んぼやあぜや土手、道端などに生える。花があるときは葉がなく、1本の茎を共有しながら花と葉が出会うことは決してない。“花は葉を想い、葉は花を想う”という一途な思いから韓国では“相思華”という(…らしい)。